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  • 執筆者の写真akiko

ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方

みなさんは、「自然栽培」という栽培法を知っているでしょうか。

私が初めてこの言葉を耳にしたのは今から7年ほど前のことでした。

自然の調和に重点を置き、植物と土の本来持つ力を引き出す農業で、自然に負荷をかけることない永続的な農業方式を言います。簡単に言えば、薬や化学肥料はもちろん、有機肥料さえも使わない栽培方法です。


自然栽培の食物を初めて戴いた時にそのエネルギーに感動して以来、本を読んだりセミナーに参加したりと、自然栽培の勉強を始めました。

農業だけでなく、発酵食品の製造現場にも同じような考え方を取り入れ自然発酵を行なっている蔵も少数ながら存在しています。

慣行栽培や有機栽培から自然栽培に切り替えたり、また時間も手間もかかる天然菌での自然な発酵を安定させるのは並大抵の苦労ではありませんが、そんな農家さんや醸造家さん達、また彼らを支援しながら企画、販売と販路を作って普及活動に励んでいらっしゃる方々のお話を伺う度、自然の美しい調和に感動し、また食に対する意識も変わっていきました。

私は自然栽培への関心を通じて自然の完璧さを学び、そこからたくさんの気付きを得ました。



今回是非とも紹介したい映画は、大自然とともに”究極の農場”を作る、8年間の夫婦の奮闘を追ったドキュメンタリー『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方(原題: the Biggest little Farm)』です。


舞台となるのはカルフォルニア。大都会ロサンゼルスに住んでいた自然を愛する夫婦が、200エーカー(東京ドーム約17個分)の荒れ果てた農地に移り、時に自然の厳しさに翻弄されながらもそのメッセージに耳を傾け、命のサイクルを学び、美しい農場を作り上げていく8年間の軌跡を描いています。



彼らの農場は自然栽培ではありませんが、バイオダイナミックで再生型の農場であり、生物多様性を重視した伝統農法を取り入れていて、多くの種類の植物だけでなくたくさんの動物たちも暮らしています。農場の主であり、もともと映画製作やテレビ番組の撮影に携わっていたジョンが自らカメラを回した映像には、美しくも残酷で、厳しくも優しい自然の姿だけでなく、時として、食肉として出荷される動物たちの命を守るために奮闘する矛盾や、人間としてのありのままの感情も隠すことなくそのまま描かれています。


害虫、雑草、バイ菌、などと、人間はすぐ善悪を決めようとしますが、全ての命は本来、自然においては完全に調和しています。自然に抗うことなく、そこから必要なものや大切なバランスを学ぶこと。これは食や農業に限った話ではなく、私たちの体や、生き方そのものの真理にも繋がると思うのです。



私がこの映画の素晴らしいと思うことの一つは、彼らは決して、彼らのやり方の正当性を誇示しているわけではないこと。

ドキュメンタリーの組み立て方も美しい映像も、一映画としてとてもクオリティの高いものに仕上がっていて、彼らのメッセージは決して押し付けがましくなく自然に私たちに伝わってくるのです。それはジョンが単なる農場経営者であるだけでなく、映像制作というクリエイティブを仕事にしてきたからこそだと思います。何事も、伝え方は大切ですね。




「私たちのやり方が正しいと言いたいのではありません。ただ、この方法で人々が自然への愛とつながりを取り戻してくれれば、皆で大きな変化を起こすことができるかもしれません。」という妻のモリーさんの言葉に、心からの共感を覚えます。

なぜなら「このやり方こそが正しい」「その考え方は間違っている」という善悪の考え方こそが、人々の分離を生み、戦争を引き起こし、世界を分断させるからです。人道的な問題はもちろん、気候変動や自然災害を含めた今世界中で起こっている様々な問題に真剣に取り組むのなら、もうそんなことを言っている場合ではないのです。



食や健康についてはたくさんの考え方があると思いますが、私自身について言うならばできるだけ自然な過程で作られた作物を食し、体の不調に関してもなるべく薬に頼らず自然治癒できる健康体でありたいと思っています。体づくりと農業は同じ、健康な土地や体は、それ自体でバランスがとれているのです。効率や利便性を追い求めてそのバランスを崩しているのは私たち自身。

とは言え、様々な状況の中では食にも体にもそこまでストイックにはなれないことも多々あるし、またそれに対してその都度罪悪感を感じて生きているわけではありません。無理のない範囲で選択し、人生を楽しみたいと思っています。



どんな人でも、地球の美しさを愛で、かけがえのないものを慈しむ気持ちはきっと同じはず。

「この映画を見てそんな気持ちになってもらえたら」と、モリーが言うように、

息をのむほど美しい自然の光景に、何度も魂が揺さぶられました。

是非、たくさんの人に見ていただきたい作品です。



『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』

2020年3月シネスイッチ銀座、新宿ピカデリー、YEBISU GARDEN CINEMA他、全国順次ロードショー

(C) 2018 FarmLore Films, LLC 配給:シンカ


スタッフ・キャスト

監督:ジョン・チェスター

出演:ジョン・チェスター、モリー・チェスター、愛犬トッド、動物たち


2018/アメリカ/英語/91分/シネスコ/原題:The Biggest Little Farm/日本語字幕:安本熙生/サウンドトラック:ランブリング・レコーズ

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