11月15日、NY在住のピアニスト海野雅威さんを支援する配信コンサートが行われました。
時間が空いてしましましたが、今日はそのチャリティーコンサートについて、そして彼が巻き込まれた事件に関して彼自身が発信しているメッセージについてご紹介したいと思います。
9月27日午後7時半ごろ、ニューヨーク在住のピアニスト海野雅威氏がニューヨーク市マンハッタン区内の地下鉄駅構内および地上で激しい暴行に遭い、救急車で病院に運ばれました。幸い命に別状はなく大事には至りませんでしたが、右腕、右肩骨折、指、頭を含む全身にアザを受けることになってしまいました。特に肩の損傷が激しく、ピアノを弾くためには手術が必要との医師の判断により10月9日に手術を受けました。手術は無事終わりましたが、依然として右手は使用できず、またこの事件による身体的、精神的ダメージは計り知れず、今後いつまたピアノが弾けるようになるか見通しは未だ立っていません。この事件を知り、まずはニューヨークのジャズコミュニティーが立ち上がり、彼を支援する行動に移りました。Jerome Jennings氏がいち早く立ち上げたドネーションサイトでは、関係者の想像をはるかに上回る寄付が世界中から寄せられています。
私たち日本で活動するジャズミュージシャンは、「自分たちが彼にできることは何だろうか」と問いました。私たちができることは、音楽を通して、彼を励ますこと、継続的な支援の必要性を発信し続けることです。
そして私たちは配信でのチャリティーコンサートを企画しました。チケットの売り上げを全額寄付させて頂くこと、そして海野氏に想いを寄せるミュージシャンとファンの皆様の交流の場となること、最後に、何よりも、配信を海野氏本人に観てもらって、元気になってもらえる音楽・メッセージを届けることが目的です。
そして45人の日本を代表するジャズミュージシャンが7時間にわたって彼にエールを送るべく、高田馬場カフェコットンクラブより、素晴らしい演奏を届けてくれました。
私たちは当初、海野くんを励まそうとこの企画を立ち上げました。
でもこの日は逆に、海野くん本人に励まされているような気がしてなりませんでした。
初めての組み合わせのミュージシャン達のセッションはもちろん、楽屋では久しぶりに会うミュージシャン同士の交流があり、何より先輩ミュージシャンの周りに若手のミュージシャン達が集まり先輩の話を興味深く聞いている姿は、心温まるものがありました。
私自身もかつて、親子以上に年の離れたミュージシャン達にたくさんお世話になりましたが、近年では顔を合わす機会もすっかりなくなっていました。そうした再会も嬉しかったし、こういった世代やコミュニティーを超えた繋がりが、ジャズミュージシャンの間でももっとあればいいのに、と常々思っていたのです。
このようにたくさんのミュージシャンが集まったのは海野くんだからこそ。彼のミュージシャンシップや人柄が、こういった場を作ってくれたのだと思います。
その場にいる誰もがこの機会を喜び、楽しんでいました。
また、痛ましい被害を受けても尚、人種差別や偏見そして自分たちの主張を通すために事件を利用するようなメディアのあり方など、様々な問題を発信する海野くんの姿勢にも心を打たれました。
日本に暮らす私たちは、今回の事件を遠いアメリカという国のヘイトクライムとして客観的に憐んだり憤慨したりするだけでなく、例えば私たちは日本にいる外国人に対して、また同じ日本人に対してすら、実際の言葉や暴力ではないにしても何か差別的な感情を抱いていないだろうか、またもし自分がこのような目に遭ったら、その時私たちは声をあげられるだろうか、特にこのコロナ禍において、改めて深く考えさせられました。
海野くんの元には、偏見や蔑視を経験しながら今まで声を上げられなかった多くの方から、「私も」という「me too」運動のような動きもあるようです。
TBSラジオの荻上チキさんの番組に電話出演した際の彼のインタビューが文字起こしされて閲覧可能です。
是非多くの方にご覧いただきたいです。
言うまでもなく、海野くんは人種を超えて世界中のジャズミュージシャンやジャズリスナーに愛される、才能溢れる素晴らしいピアニストです。
そして音楽に対するそのひたむきな姿勢と、自分の意志を物怖じせずにまっすぐに伝える勇気を持って、音楽を超えて世界中の人に大切な何かを伝えるメッセンジャーでもあるのだな、と思いました。
コンサートに参加してくれたジャズミュージシャン達だけでなく、今回参加できなかった多くのミュージシャンからの励ましの言葉や、視聴してくださっていたみなさんの想いもとても伝わってきました。
特に実行委員の中でも、海野くんの親友であるベースの吉田豊さんとドラムの海野俊輔さんは今回のコンサートのために本当に尽力してくれました。私は実行委員会に名を連ねてはいますが、ほぼこの二人の努力の賜物です。
出演者のみなさんにもスタッフの方々に対しても、至らない点は多々あったと思いますが、みんな優しい気持ちで応えてくれて、感謝しかありません。
私たちは最後に、チャリティーコンサートのタイトルになっている「Look for the silver lining」というスタンダードナンバーを演奏しました。
この曲をこのコンサートのタイトルに選んだのは、海野くん本人です。
このsilver liningは直訳すると「銀色の筋」という意味ですが、雲の間から差し込む一筋の太陽の光をさすそうです。
“Every cloud has a silver lining”
という英語のことわざもあるように、「希望の兆し」という意味合いで使われます。
歌詞をシェアしますね。
銀色の筋を探そう
どんな困難に直面しても、
思い出して、どこかで太陽は必ず輝いていることを
喜びに満ちた心は、いつも悲しみや争いを追いやってくれる
だからいつも、希望の兆しを見つけよう
人生の、陽の当たる面を探そう
海野くん、私は心配してないよ。
あなたはきっとまたピアノを弾くし、今までよりもっと多くの人たちの心に響く音楽を届けてくれると思う。
最後になりましたが、前日から寝る間を惜しんで準備をしてくださったStudio Dedeの配信スタッフのみなさん、そして参加するミュージシャンのために広い楽屋まで用意してくださった高田馬場cotton clubのオーナー茂串さん、長時間ご視聴、応援してくださったみなさま、本当にどうもありがとうございました。
アーカイブはまだ3ヶ月ほど残っています。今からでもまだ、たくさんの方に観ていただきたいと思います。
是非、シェアをよろしくお願いします。
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